【80号夢幻賞&品評会】

 

【夢幻賞 総合部門】

 

1位 益岡和朗『しらゆきと書店員』

2位 神田遊楽『No you, No me』

3位 各務都心『人狼の仔』

 

【夢幻賞 現役部門】

 

1位 神田遊楽『No you, No me』

2位 武見倉森『ウィズアウト・チャイルド』

3位 凪宵悠稀『わたしたちの罪過』

 

【夢幻賞 OBOG部門】

 

1位 益岡和朗『しらゆきと書店員』

2位 斉藤五月『ブロードウェイで会いましょう』

3位 各務都心『人狼の仔』


 こんにちは、飴宮すみです。

 もう冬ですね。を通り越して春ですね!?!?更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません~!近所の河津桜が満開になっていました。一年前、まだ高校生だった私も同じ場所で見たなあ、なんて…時の流れは早いなあ、なんて……やっぱり桜はいいですね。皆でお花見したいです。この記事では一日目と三日目の記事を担当したので二、四日目担当の神田遊楽とかわりばんこで登場しますよ~

 

 80号品評会はこのような日程で開催されました↓↓ ※OBOGの方は、タイトルの後に★マークがついています

 

【一日目】

 

・月島かな『ジャンクフードのすゝめ』

・斉藤五月『ブロードウェイで会いましょう』★

・神田遊楽『No you, No me』

 

【二日目】

 

・川戸小判『ショートケーキ・ダイスロール・ユー・アンドミー』★

・武見倉森『ウィズアウト・チャイルド』

・浅上皐月『僕の翼』

 

【三日目】

 

・大麦千代子『きみをさらって』

・蓮由貴乃『星の輝く夜に』

・萬澄十三『めざせ誘拐グラン・プリ』★

・益岡和朗『しらゆきと書店員』★

・新宮義騎『敗北』★

 

【四日目】

 

・三鳥ホロ『女不良教師と童貞少年』★

・凪宵悠稀『わたしたちの罪過』

・各務都心『人狼の仔』★

 

 80号のテーマは「新月」です。

 80号品評会は11月9、10、16、17日と2週間に渡って行われました。ハード…!でしたが普段はお会いできないOBOGの方にも品評をいただき、とても良い刺激になりました!もっとお話したかった〜

 

【1日目】

月島かな『ジャンクフードのすゝめ』

 ジャンク品=「そのまま使える見込みのないもの。故障品。」(作品より引用)を材料にした、「ジャンクフード」レシピ本です。小説ではないですが、作者さんや皆さんが言っていたように萬屋は何を出しても大丈夫……!「萬」屋ですもんね!?

 作者さんとしてはレシピ本風ものを書きたかった、食べ物じゃないものをおいしそうに表現したものを書きたかったそうです。攻略本を眺めるテンションで読んでもらいたい、ということです。全体的に描写が細かく想像しやすいというコメントが多かったです。また「写真かイラストは必要」など、レシピ本としてのクオリティをもっと上げられる、という意見が聞かれました。

 個人的には小説以外のこのような作品も部誌にあったら面白いな〜と思っていたので嬉しかったです。これからも萬屋の幅を広げていきたいですね。

斉藤五月『ブロードウェイで会いましょう』★

 「ブロードウェイで会いましょう」――このセリフと芝居を通して描かれる主人公の懐古と成長の物語です。

 斉藤先生としては、60年代のアングラ演劇とインターネットの老害を意識したそうです。誰かの怒りや意見を自分のものとして何かを述べなくてはならないような空気に対する抵抗があった、と仰っていました。作品にはまた新たに手を加えているそうです。完成版も読んでみたいです…!

 爽快感のあるラストが好評でした。また、主人公が自分語りで進んでいくのは、疾走感はあるものの他の登場人物との絡みがもっと見たい、芝居と団地を接続するのにも役立つのでは、という指摘がありました。一方で主人公の孤独さとリンクしているので、良いという意見もありました。

神田遊楽『No you, No me』

 夢幻賞現役部門第一位を獲得した作品です。前回に引き続き、一年生の躍進が素晴らしいですね!

 復讐代行――他人の復讐願望を代わりに叶えること。十七歳のサラは命令を受け、極秘でこれを仕事とし、時に人を殺めた。世界を転々とするなか降り立ったのは日本。またもや命令によって学校に通うことになる。そこで彼女はごく普通の男子高校生、小春に出会い、恋に落ちる。その肩には重すぎる秘密を負った少女の苦悩と恋が描かれています。

 作者さんとしてもかなり力をこめた作品だったそうです。品評会でもその分量はもちろん、内容についても高い評価を得ました。物語の展開、構成が上手いとの意見がとても多く聞かれました。指摘されたのは物語のディティールの部分と、主人公に自我がなくイエスマンになってしまったこと。作者さんとしては人間性を持たない現実離れした人物を書きたかったそうですが、他の人物がそれぞれ個性が立っていたので尚更だったようです。また、作者の、キャラクターへの思い入れの差が露呈してしまっているという意見がありました。

 

 以上が品評会一日目のまとめでした!

【2日目】

 神田遊楽です! もういくつ寝るとお正月です。一年間で一番好きなイベントがお正月です。こたつを愛してやまないお年頃です。みかんも愛してます。正月に実家で、こたつに入って、お菓子やみかんを摘まみながら、ぐーたら過ごすこと、すなわちこの世の天国。

 ――これを書いたのは、実に2020年を迎えるそのちょっと前です。月日が流れるのは早いなあ(白目)。←飴宮と同じこと言ってる。気づけばもう新年度が近く、ついこの前入学したばかりに思える私や同期は二年生に上がります。ということは、新入生が入ってくる(願望)! 神様、クリスマスプレゼントは後輩を所望します。まだ貰ってませんよね。

 ところで過去の品評会まとめで、執筆者の方々が近況報告とかしてくれるのが私、好きなんですよ。一種のエッセイですよね、皆さんしていただきたい。数十行に渡って熱く語ってほしい。そんな私はそろそろ火花散るファンタジックなバトルものが書きたいです。書いてます。

 茶番はほどほどに、今回私が担当いたしますは品評会二日目と四日目です。まずは二日目から行きましょう。

川戸小判『ショートケーキ・ダイスロール・ユー・アンドミー』★

 タイトルを一発で覚えられませんでした。(小判先生申し訳ございません!)

 ある日突然血が白くなってしまい、白くなってしまっただけで、まったく違う人生を歩むことになった少女たちのお話です。主人公中原紅音は、血が白いことを理由にいじめを受け、家庭内で母に無視されていました。そんなある日出会った同じく血が白い少女・落合ユリによって彼女と周りと、世界は、変わっていきます。

 この作品は二部構成となっているのですが、二部構成、皆さんお好きらしいです。しかもちゃんと役割を果たしていて、おもしろいという称賛の声が多かったです。物語そのものもおもしろかったという声も、もちろん多々。構成がうまいという声もありましたが、文芸部的言われて嬉しい言葉トップ3に入りますよね(※意見には個人差があります)。一方で第一部に対し第二部が粗いという声も。第一部で登場したキャラクターが第二部で全員回収されきっていないというのは惜しい点でありました。あとは行動原理、感情移入や対比など。先生は改稿する予定であるらしく、その際の文量は3倍ほどと仰っていました。楽しみすぎますね。

武見倉森『ウィズアウト・チャイルド』

 「ポッド」という、三十年前突如現れた人類の敵に唯一対抗できる〈ウォーセ〉という存在。彼らはほとんどが人間の子どもであり、主人公はその整備士の女性です。

 幽霊や他者の存在など、武見先生が注目していらっしゃるキーワードが散りばめられていました。映画『天気の子』を見て、大人の真っ当な視点で書こうと思ったそうです。

 全体的に説明を書きたくなかったとのお言葉に、説明が欲しかった、もっと読みたかった、という声が上がる半面、この話はこれで完成されている、という声もあり、人によって意見がかなり違うという興味深い品評会でした。先生が仰っていた「分からない気持ち良さ」という言葉も印象的でした。武見先生の品評会は、おそらく武見先生の品評会でしか聴けません。

浅上皐月『僕の翼』

 通常攻撃が精神攻撃で二回口撃のお母さん(先生の巻末コメントより引用)です。あらすじ紹介に一番悩みましたが巻末コメントが一番適切かなと思いました。浅上先生、申し訳ございません。

 「浅上構造」という単語が出てきました。これまでの中で一番バランスの良い作品であるという声が古参の方からあり、一方でこのままでは飽きられてしまうという懸念の声もありました。フィクショナルな設定をぽんと書ける身軽さは良い、という称賛も印象的です。

 展開がギャルゲーに例えられたことから、本筋が分散している、軸が曖昧という意見が出てくるなど、非常に味のある品評会となりました。次の浅上先生の作品にも期待を抑えられません。

 

 以上が品評会二日目のまとめでございます。また四日目で。

【3日目】

 飴宮すみです。出てきました、かわりばんこで。

 ちなみに神田はここだけじゃなくて、隙あらば「後輩ほしい」って言ってます。後輩か~~私もほしいです。こう見えて(?)後輩はめちゃめちゃ可愛がるタイプです。そして後輩に真っ先にナメられるタイプです。別にいいけどね。

大麦千代子『きみをさらって』

 前編です。小学生の頃の夏休み、ひょんなことから主人公が不可思議な体験をしていきます。後半は一体どうなっていくのか……!?気になりすぎます。

 現代社会に染まってしまった私には書けないであろう独特の田舎感、夏っぽさ、子供っぽさが物語全体から醸し出されているところが高く評価されました。作者としては三点リーダーを使いすぎるのが気になっていたようですが、ここでは気にならなかったという部員が多かったです。不思議世界に入る前の過程をもっとしっかり書いてほしいという指摘がありました。また、ひとつのストーリーとして完結していて、後半とつなげるものが必要という意見もありました。

蓮由貴乃『星の輝く夜に』

 テーマ(新月)作品で、短編です。煌々とした星の光がページからこぼれだしてくるような美しい作品でした。

 色や言葉の選び方が素敵という声が多く聞かれました。比喩も多く含まれていて想像をかきたてられたという意見もありました。

一方で指示語を多用しすぎているという指摘もありました。指示語を使うことで全体的にぼんやりした雰囲気を出せるものの、気になってしまう、ということでした。また、「光」に焦点を当てすぎて、まぶしすぎるので対比や緩急がほしいという人もいました。表現が一辺倒になってしまった、と作者さんも言っていました。私も耳が痛いです……語彙力を養わなくては!

萬澄十三『めざせ誘拐グラン・プリ』★

 ミステリーで、連作短編の一編です。ミステリ小説風謎解きクイズ、ということで、読者に謎を解決してもらうという形で品評会改革を志しているそうです。この日も謎解きをしてみた部員もいました。

 文章が読みやすかった、面白く読めたという意見がありました。非化学的なものが登場して、推理とは離れてしまったという人もいました。現実に存在する固有名詞の扱い方についてと、リアリティについての議論が多かったです。難しいですよね、固有名詞。今までの品評会でも度々議題にあがっています。今回は、現実にあえて似せたものにすると、飲み込みづらさが出てしまうという意見がありました。

益岡和朗『しらゆきと書店員』★

 80号夢幻賞総合部門、OBOG部門第一位を獲得した作品です。

 「しらゆき」と「書店員」の超能力者どうしのカップルと周りの人たちの関わり合いや、それを通して見えてくるふたりの関係を描き出した作品です。11月当時話題になった天皇制、ジェンダーなど様々な要素も詰め込まれ、読み応えがありましたね。超能力のアイデアの独特さと読みやすさで、面白く読めた人が多かったようです。ここでは、作品を超えて、SNSについて、ジェンダー観についてそれぞれがかなり熱く語った品評会になりました!こういう品評会もたまにはいいですね~

新宮義騎『敗北』★

 舞台は1940~50年。現役復帰を目指すボクサーと、柔術が世界最強だと言う柔術家の熱い闘いが描かれています。

 品評会でもそのバトルシーンのアツさが評価されました。格闘系を読まない人も、読む人もそれぞれ楽しめたようです。構成の鮮やかさも評価されました。硬く凝縮された文体については賛否両論だったようです。また、年代感をもっと前面に押し出すとよいという意見がありました。また、事実の描写が多く、もっと背景のディティールがほしい、さらに長くした物語を読んでみたいという声もありました。

 

 以上品評会三日目のまとめでした。

【4日目】

 二度目の神田遊楽です。

 このブログを、もしかしたら今度成城大学に入学してくる新入生の誰かが見ているかもしれない……そんな可能性を考慮して、萬屋夢幻堂、もとい成城大学文芸部のPRでもしておこうと思います。

 何より胸を張って言えることは、「品評会がすごい」ということです。部員たちで作り上げた部誌を事前に読み込み、品評会当日に各作品一時間ずつという制限(ゆるめ)で、集まった人たちが順番に品評をしていきます。自作品の品評はもちろん、他作品への品評も非常に参考になり、小説を書く者としてこれ以上に価値のある時間はない、と言えます。品評のまとめ自体はブログで公開していますが、実物はすごいですよ~(語彙力の死亡)。品評をもとに次号のプロットやキャラクター設定に手を加えたり、意識したりするようにしています。事実、入部してから毎号書かせていただいてますが、前号より成長したとのお言葉を時折いただきます。具体的に直近の例で申し上げますと、登場キャラクターを大事に扱うようになりました。

 と、与太話はほどほどに品評会四日目まとめに入ります。

三鳥ホロ『女不良教師と童貞少年』★

 男子校を舞台とした、恋の成就、欲望の達成、その過ちの物語です。短いお話で、前後半の繋がりが薄く、どちらかが蛇足に思えてしまう、という意見がありました。ただ、作者さんは前半後半に分けているという意識はなかったそうで、一番書きたかったのは性交渉のシーンだと。人物が何かを得るか、失うという話にしたかったと。その性交渉の立ち位置について意見が集中していましたね。一方で、後半は読者全員による意識喚起であり、読者によって感じるものが違ってそこが魅力になっている、という称賛の声もありました。

凪宵悠稀『わたしたちの罪過』

 もう会うことのなくなったクラスメイトの意味深な言葉、かつてのちょっとした事件の謎を現在の同級生と一緒に解明する物語です。凪宵先生初の日常ミステリーへの挑戦です。過去作の登場人物がキーパーソンを担っているので、凪宵ファンには堪らない作品なのではないでしょうか。作者さん本人的には爆弾を投げたつもりらしいのですが、その意図とは反対に高評価が多かったです。丁寧なストーリーと、描写と、心情。なんと70%実話らしいです。どこからどこまでなのでしょう、気になります。作者と人物の距離感が良い、という意見もあがりました。一方で、地の文における現在形の使い方についてや、三人称視点の書き方についての意見もありました。はてさて、新ジャンルを開拓した凪宵先生のこれからの作品が楽しみです。

各務都心『人狼の仔』★

 かがみとしん先生です。OBの方ですが、お忙しいため、欠席品評となりました。十八歳の誕生日を迎えたヴォルヘンバーグの第一王女・ヒルデはその晩、地下牢にて一人の魔女と出会います。すると、なぜかヒルデの体に異変が生じ、彼女は狼へと姿を変え、人狼となってしまったのです。衝動的に人を食ってしまい、国を追放されたヒルデは、追いかけてきた忠実な騎士ベルンハルトと共に冒険に旅立つのでした。

 RPGチックなお話ですが、それもそのはず、この作品はゲームのシナリオを基にしたものなのです。それゆえか、キャラクターの動機が弱いという意見が多々ありました。ですがテンポが良い、キャラそれぞれが特徴的な能力を活かして戦っており面白い、長くても飽きさせず楽しませる、等の称賛の声も多かったです。それまでキャラクターに感情移入できなくとも、見せ場を切り取り魅力的に描き、感動を与えている、という意見が印象的でした。

 以上が品評会四日目のまとめであり、これにて終了です!

 次回の『萬屋夢幻堂』にご期待ください。