【79号夢幻賞&品評会】

 

【夢幻賞】

 

1位 六畳間一人「ペトリコール」

2位 月島かな「Nexcution」

3位 凪宵悠希「鈴の街、昔日の風」

 

【新人賞】(一年生のみ)

 

1位 六畳間一人「ペトリコール」

2位 神田遊楽「朝に開き暮れに落ちる」

3位 飴宮すみ「君宛て」

 


 

 79号品評会の報告をさせていただくトップバッターは、私、倉下げるでございます。

 暦の上では正真正銘秋でありますが、最近の気候、特に気温なんかみてみるとその秋が深まってんのか深まってないのかよく分からんことが多いので、そんな中でちゃっかりと夏号品評会のブログが上がっていてもさほど問題にはならんでしょう。

 

 さて、今回は以下の作品について意見が交わされました。

 

【1日目】

  • 倉下げる『クロノオリ 灯夜編 2』
  • 射水仁奈『月を捕まえる』

【2日目】

  • 凪宵悠希『鈴の街、昔日の風』
  • 神田遊楽『朝に開き暮れに落ちる』
  • 六畳間一人『ペトリコール』

【3日目】

  • 小田部『白』
  • 月島かな『Nexcution』
  • 飴宮すみ『君宛て』
  • 武見倉森『さかさまに』

  79号のテーマは「新緑」です。

 今号には今年春に入部した一年生の作品も掲載されています。

 新人さんの作品というのはものと同時にその人の人となりも見れるいわば挨拶のようなものだと思っているのですが、今年もまた、蓋をあけてみればなかなかの曲者ぞろいでありました。嬉しい限りです。

 

【1日目】

倉下げる『クロノオリ 灯夜編 2』

 私です。連載三作目の肩書を持った連載二作目になります。

 ちなみに前回提出したのが昨年春号ですので今作は作者の一年四半期ぶりの作品になります。連載です。誰が内容を覚えているのか。 

 と、作者自身思いまして、冒頭の登場人物紹介及びあらすじに力を注いだところ、やりすぎて「あんまり長いと読む気を失くす」と言われる始末でした。反省です。次は創元推理文庫を目指します。

 日常系で展開の全く進まなかった前二回と異なり、今回はいわゆる「電波系」の路線で雰囲気ごとガラリと変えて突っ走ってみました。「電波系」において重要なのは「言語の体をなしていない言語の心地よさ」だと個人的に考えているのですが、今作ではそれが十分に発揮できていなかった、というのが反省点としてあります。学友からも「記号的な狂気であるがゆえに内実がなく退屈」との指摘がありました。語彙力、またそれ以上にセンスをこれから磨いていきたいと切に思いました。

 

射水仁奈『月を捕まえる』

 こちらは上で取り上げた新人作家さんのうちのおひとりになります。

 見開き一ページの掌編。同期にも作風は違いながらも全く同じ形式で新人号に投稿したヤツがいたので、妙な懐かしさを感じながら読んでいたりしました。

 月夜の下での情緒的な男女の語らい。短いながらもハイコンテクストな文章が掌編という形式にピタリと合致していて、部員からも「雰囲気が好き」という声が数多くあがりました。

 しかしながら、タイトルにも入っている「月」の扱いについては、モチーフとして安易であるがゆえに、作中の意味付けにオリジナリティを出せると良いという意見が出されたり、話が全体を通して「月を捕まえようとする物語」であることから、タイトルが妥当ではないといった突っ込みがありました。

 抽象度が高いながらも、話のバックストーリーが自然に想像できてしまえるのは「月」というモチーフの持つ力もそうですが、それ以上に射水先生の丁寧な言葉選びの賜物であると思います。決してスタイルを押し付ける訳ではありませんが、こういった作風の中長編が寄稿されたりすると、部誌の雰囲気もまた変わっていくのかなあと思ったりします。

 

 一日目の報告は以上になります。倉下げるでした。

 

【2日目】

 ブログ記事を担当するのはいつ以来になるのかな。四年の凪宵です。

 今回は8月21日から三日間行われた79号品評会、その二日目のレポートとなります。

 

凪宵悠希『鈴の街、昔日の風』

 はい、僕の作品ですね。わざわざ本人がいる日の仕事を振ってくるあたり、現執行は先輩の使い方というのをよくわかっていますね。彼らは遠慮という言葉を知らなくて先輩うれしいです。

 内容は小学生の男の子が夏休みにおばあちゃんの家に預けられてちょっと不思議な体験をするみたいなお話。品評ではこういうの好きねって言われちゃった。好きなんですよぉ。

 綺麗に纏まった文章や雰囲気づくり、文章上での『音』の使い方といった点が評価される一方、もうちょっと作品世界を深掘りしても良かったという意見も上がりました。

 僕的には夏休みの子供用アニメのホラー回くらいのつもりだったのに序盤のあたりがけっこうガチのホラーと勘違いされて意外だったり。まあ、あの手のヤツって割と容赦なしに怖がらせてくるし、ある意味名誉なことなのかも。

 

神田遊楽『朝に開き暮れに落ちる』

 「一週間前には入稿していた」上に「四万文字超の中編」を仕上げてくるという、先輩の何人かはそれだけでノックアウトされそうな期待のニューフェイス。一年生ながらしっかりしているのか、単に先輩がだらけているのか……。

 お話は二国間で戦争が行われている世界での戦場最前線で繰り広げられる生と死、罪と罰の物語。新人ながら重めのテーマを真正面からぶつけてくる姿勢は好感が持てますね。

 文章表現はもちろん、きちんと物語を畳むまで書ききった点など『小説を書くこと』に慣れている部分が評価されたものの書き馴れている故の文章の「くどさ」が賛否分かれることに。さらに議論が集中したのはラストシーン。ここは、作品最大のネタバレに抵触するので、広報記事に書くのはどうなんだろう。というわけで、後輩の露手君のアツい言葉を引用させてもらいましょうか。

 

――真摯じゃないですよね。生きろと言われたら生きなきゃいけないんですよ。

 

 うーん、アツい。そしてなんともカッコイイ。ちなみに彼は僕の作品でも「先輩が以前馬鹿な大学生を海に沈めたのを思い出しました」という名言を放ってくれました。ええ、沈めましたとも!

 

六畳間一人『ペトリコール』

 本日の新人作家二人目。諸事情により3,4日で書かれたというのは同日品評の神田さんとは対照的ですね。その『諸事情』がどんな地獄なのかは僕の知るところではないのですが、なんでも音声入力を駆使して作品を書ききったんだとか。迫りくる締め切りに追われつつそこまで足掻けるガッツ、僕にはもうないです。やはり一年生はしっかりしているのか、はたまた先輩が諦めがちなのか……。

 お話は認知症を患ったお母さんとのギクシャクした関係を解消できずにいる女性が雨の中で一歩前に踏み出すお話。『ペトリコール』とは雨上がりのあの独特な匂いのことだそうです。

 執筆期間3,4日という作者の不安に反して、描写力の高さや表現の巧みさには評判が集まりました。しかしながら、物語としての吸引力の弱さやこの作品ならではの強みがほしいという意見も。粗がない堅実な作品づくりも裏を返せばこういう感想にもなってしまうだけに、小説を書くことはとても難しいことだと痛感させられます。

 

 二日目はこんな感じですかね。

 もう四年目になると、新人さんにはどこか懐かしさを感じたり。自分を振り返ってしまうというのもあるけれど、どちらかと言えば「ああ、卒業していったあの先輩がまた姿を変えて戻ってきたな」的な。やっぱ似たようなのが集まるんですかね。それも抜けたら似通った人が補充されるあたり、実によくできているものです。歴史は繰り返すってよく言ったものよ。

 というか、次号は歴史を繰り返すどころか歴史上の人物がいっぺんに大集合なんだよね。ノスタルジーのぬるま湯に浸ってるより、波には乗らなきゃ損ってものです。10号に一度のお祭りに向けて、僕も頑張らないと。

 

【3日目】

 こんにちは。1年の飴宮すみです。Twitter当番をよくやる人です。自分のアカウントより圧倒的に呟きが多いです。

 79号品評会3日目のまとめは1年生2名でしていきますよ。

 

小田部『白』

 初っ端からごめんなさい、本人不在のため品評はされませんでした。

 個人的に好きな作品だったので言いたいこと色々あったのですが……またの機会に。

 

月島かな『Nexcution』

 タイトルは「Next」と「execution」(意味:実行、遂行)を組み合わせた造語だそうです。大きな戦闘と戦闘の間の期間のお話です。日常シーンが多めで、特に飯テロが良かったという声があがりました。月島先生は高校が舞台の作品を多く出されていますが、今回は大人主人公。100ページ8万字の長編でしたが、流れがあって退屈せずに読了できたという方が多かったです。一部説明口調になってしまったところが気になる、場面が飛び飛びになっているという意見がありました。月島先生の作品で一番面白かったという声もありました。

 

 

 中の人が代わりまして、はじめまして。新入一年生の神田遊楽と申します。夏休みは三時四時に寝て昼に起きて原稿バイト原稿バイト原稿バ……

 とにかく、品評会は二度目ですが自分の作品が品評を受けるというだけで緊張度が段違いでした。しかし、終わった後には「また書こう、がんばろう」とやる気が湧き出て、品評していただいて本当に良かったという気持ちでいっぱいになりました。こうして人は成長していくんですね。

 それでは報告に入ります。神田は三日目、最終日のラスト二作品の報告を担当いたします。

 

飴宮すみ『君宛て』

 実は同期で新入一年生です。「新緑」らしく、爽やかで可愛らしいという声が多々ありました。タイトルにもあるように手紙が重要な役割を担っており、手紙に添える名前の使い方によってこの作品自体が一つのラブレターのようになっていた、という意見が印象的でしたね。分かりやすい文章、気持ちを丁寧に表している、という称賛があった一方で、全体的に描写や葛藤が足りないという指摘もありました。テーマの扱い方についても指摘がありました。「新緑」、難しいですよね・・・・・・。

 作者さんとしては、作中に恋と死を絡める描写があったようにもっと重い作品が書きたかったそうです。ただ、「新緑」と中学生の恋愛が絡みどうしても爽やかさが出てしまったり、恋する相手への思いや話題が比較的ライトになってしまったりと、重さはあまり感じられなかったという意見がありました。飴宮先生がこの品評会を受け、次にどんな重々恋愛奇譚を書かれるのか非常に楽しみです。

 

 今回のお話は SF ではなく、「不在の他者」を小説の中に出そうという実験的小説だったそうです。その発想自体に感服ではありましたが、品評のしづらさから途中で挙手制に変更されました。初めはきちんとストーリーが組まれていたそうですが、文字数を大幅に削ったそうです。二章構成で、後半は一貫して地の文において二人称を使用しており、独特な雰囲気を醸し出していました。小説から技巧だけを抽出した感じであるにもかかわらず上手くできている、という意見がありました。

 読者に衝撃を与えたかった、催眠を掛けるイメージを意識した、という武見先生のお言葉も流石です。この作品はこれで終わりにするつもりはないそうで、東京五輪前には書かれるとのことですが、どのような変貌を遂げるのか非常に楽しみですね。

 

 以上、品評会三日目報告を飴宮すみと神田遊楽が担当いたしました。