【夢幻賞】
1位 浅上皐月『ハッピーラブトリガー』
2位 鬼殺空想達磨『空疎なるバメロッツ』
3位 武見倉森『死者の裔』
77号品評会の報告は倉下げるが行います。
76号のときに葵氏が話していたように、報告は一週間以内に行うのが決まりだったので、ちょうど一週間たった今日筆を執った次第です。極道入稿です。こうしてブログの記事を打ってる今も、刻々と春号の〆切は近づいています。
「あと二週間(アバウト)で〆切がくる」
「〆切がくるとどうなる?」
「知らんのか」
「次の〆切に追われる」
『計画性』のファイルを脳にインストールできるのであれば、いくらだって支払ってやりたい。
さて、今回の品評会では以下の作品について話し合われました。
【1日目】
- 月島かな「蕾」
- 凪宵悠希「毒」
- 黒山羊双眸「「死ねばよかった」」
【2日目】
- 鬼殺空想達磨「空疎なるバロメッツ」
- 武見倉森「死者の裔」
- いぶきふうか「自転車」「白いき」「童映」
77号のテーマは「新雪」です。
【1日目】
月島かな「蕾」
6万字越えの長作ということもあり、部活、コスプレ、同性愛など要素の詰まった読み応えのある作品となっていました。
ページを開いてまず目に入る登場人物紹介は、先生本人もどう思ったか気になったということで議論が白熱。あって分かりやすかったという声から、欲しい情報が見当たらなかったためもう少し載せて欲しかった、人物どうしの関係がそこまで複雑ではないのでいらない、という声まであり、人物紹介ひとつにしても作品の大事な一要素であることを考えさせられました。
内容においては、コスプレ、ジェンダーなどの要素が際立っていたのに比して先生本人が描きたかった人物の変化の描写が薄くなってしまったことや、文章表現が脚本的であることに対して指摘がありましたが、同性愛的な描写で見た目に頼らなかったことなどが評価されていました。
自身の本当に書きたいものをブレずに書くことは、というのは大切であり、また難しいことでもあると思います。だからこそ、それを成功できた作品は大いに評価されるのだなあと個人的に思います。
凪宵悠希「毒」
凪宵先生お得意のホラーです。
いぶきふうか氏が「怖くなったら読めないかも」と言ったことから始まったものだそうです。
人間が怖い話。あと物件はちゃんと調べてから入居しようねっていうありがたい話でもある。
水死体なんかが出てくるんで辛い人は注意。でも視覚的にインパクトが足りないよねって話も出ましたよ。
別に手抜きってわけではなく、月島さんで真面目なこと書いてしまった反動です。凪宵先生すみません。
死体の溶けた水をアレするとか、すごく気持ち悪くて良かったと思います。
いぶふうの感想も個人的にきいてみたいと思います。
黒山羊双眸「「死ねばよかった」」
18作にも及ぶ詩の連投。
若さの衝動。赤裸々に表現された苦悩。その激しさが多くの部員の心を揺さぶりました。
萬屋でここまで胸中の思いをそのまま作品にダイレクトにぶつけてくる作者さんも珍しいですよね。
そのダイレクトさが文学的に昇華されているところに黒山羊先生の技術の高さを感じます。
個人的に「詩はかなり読者に渡されたもの」という先生の考え方も好きです。
黒山羊先生は77号の表紙の絵も担当されていますよ。多才。
【2日目】
鬼殺空想達磨「空疎なるバロメッツ」
おにごろしくそだるま先生です。お久しぶりになりますね。
今作は連載の二作目。この連載シリーズの名前はまだ決まっていないそうです。
バロメッツとは黒海沿岸、中国、モンゴル、ヨーロッパ各地の荒野に分布するといわれた伝説の植物(wikipediaより)で、羊がなる木だそうです。可愛いですね。ちなみにこの伝説はヨーロッパ人が綿の木を勘違いしたことから生まれたそう。可愛いですね。作中でもそんな羊のなる木が大暴れです。ちょっとおイタが過ぎて、人を何人か殺してしまいます。可愛いですね。無理があるのでそろそろやめます。
今回は二話目ということが議論の大きなポイントになりました。五話構成であるという点からこの二話を見たときに、この作品のテーマである『正義』について主人公の考えが煮詰まっていないことや、一話一話の変化が乏しいことに指摘が入りました。また、一話として見た際も、せっかくのミステリー要素を生かし切れずに展開が進んでしまったことが気になる点としてあげられていました。『魔術』の存在する世界観で始まった今シリーズ。その説明回を踏まえたうえで、サブテーマが重かったこともあり、話の着地点がはっきりしないまま終わってしまった、というのが個人的な印象です。先生自身も不完全燃焼に終わってしまったという感覚があるらしいので、ぜひ次回では完全燃焼した鬼殺空想達磨を見てみたいですね。文字の圧がすごいですが。
でも、詠唱はカッコよかったぞ。
武見倉森「死者の裔」
おいしいごはん改め武見倉森先生です。タイトルの最後は『すえ』と読みます。
ヒエロニムス・ボスの絵からインスピレーションを受けたという今作。先生が個人的に参加されているゲンロンSF創作講座にて公開した実作の改良版になります。ちなみに、このゲンロンにて先生の元ペンネームが読めないと言われたことから現在のペンネームにしたそうな。
『礼拝堂』という生命体の中で暮らす人々の穏やかな生の営み、そしてとある出来事をきっかけに彼らは滅びへと向かっていく、という展開。先生のしっとりとした文体が作品にマッチしている、『礼拝堂』『羅針盤』といった先生オリジナルの生命体から形作られる独特の世界観が試みとして面白い、といった意見がある一方で、それらの視覚的なイメージがつきづらい、名前が現実に存在する名称であるがためにイメージが既存のものに引っ張られる、世界観の記述が足りない等の指摘が見受けられました。また、登場人物が主体的に動いていない点が特に滅びへと向かう物語後半において多くみられ、物語性に欠けることや、読者を置いてけぼりにしてしまう可能性も示唆されました。
次号には本人曰くライトノベルが提出される模様。彼の中でのライトノベルが一体どんなものなのか、気になって仕方がありませんが、とりあえず滅茶苦茶楽しみであります。
いぶきふうか「自転車」
いぶふう三連弾の第一弾。心の熱を余すところなく注いだかのような文体がヘンに癖になります。
作品形態はエッセイ。けれども部員の多くからは小説の方がいいのでは、という声があがりました。
エッセイか小説かを語るにあたって、エッセイの特性からタイトルについても指摘がなされていましたが、小説として読んだときのエンターテインメント性の高さは評価されていました。
普通に怖い事件であっただろうに、これを作品のネタに使ってみせたいぶきふうか先生の作家精神には平伏せざるをえません。
いぶきふうか「白い息」
いぶふう三連弾の第二弾。こちらは詩で、今号唯一、貴重なテーマ作品であります。
視覚的イメージを前面に出していた点が、シンプルに分かりやすく、しかし単一に感じられてしまったとも言われていました。
また算用数字の扱いについても、作者のこだわりでルールからどこまで逸脱できるかで議論が交わされました。
いぶきふうか「童映」
いぶふう三連弾の第三弾。こちらも詩の作品。
幼い頃の記憶や抱いていた感情、変わってしまった今、それらに覚える切なさを表現するための色づかいやシンボルの意図が議論の中心に添えられていました。また、白い息にも見られた句読点の使用にも指摘が入っていました。
絵や写真で補強するのもあり、という意見もありましたが、こちらも、視覚的な描写が中心となった作品でした。
77号品評会の報告は以上になります。
そろそろ新年度が始まりますね。新入生の方々の目にこちらの記事が届いているかは分かりませんが、もし届いているのであれば、他の品評会や行事の記事なんかも覗いてもらえれば、部の雰囲気がなんとなくわかるかもしれません。部誌に興味があるよ、という方、下のボタンより購入していただけるとありがたいです。
それではこの辺で。
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